木質バイオマス燃料の利用の課題・環境に優しいのは本当?
バイオマス燃料は実は環境に優しくない、エコではないという指摘もあります。なぜでしょうか?
それは、バイオマス燃料にとうもろこしやサトウキビなど食用の植物を利用している点からいわれています。大規模な農耕には機械の導入や農薬の散布が欠かせません。そこで使われる機械が排出する二酸化炭素を考えると、総合的な二酸化炭素の量はどうなるのか? と懸念されているのです。
では、廃棄される木材を使う木質バイオマス燃料と比較するとどうでしょう。生産過程で排出される二酸化炭素の量は、環境問題を解決する手段にはならないのか。この課題について詳しく解説していきます。
目次
バイオマス燃料はエネルギー、環境問題の解決にならない?
バイオマス燃料は石油に比べて排出する二酸化炭素の量が少なく、環境にいい、と考えられています。
とはいえ、これは単純にバイオエタノールの二酸化炭素排出量とをガソリンの二酸化炭素排出量を比較した結果です。植物を栽培するときに消費されるエネルギーは考慮されていません。
また、食用の植物を利用することによって様々な問題も出てくるのです。
食用の植物を利用することのリスク
バイオエタノールの原料の大部分はとうもろこしです。食品でもあるとうもろこしは、中南米を中心に主食として利用している地域も多い植物。それ以外にも甘味料などに加工されて世界中で流通しています。
そのため、エネルギー源として加工することを目的に栽培を優先すると、食品として使われるとうもろこしの価格が上がってしまいます。結果、途上国で深刻な食料問題が起こるのです。これは無視してはいけないない問題です。
そこで、ひまわりなど食用ではな植物を栽培する方法も考えられています。しかし、効率のよい栽培方法はまだ見つかっていないようです。根本的な解決には至っていません。
畑地を作ることで森が開梱される
また、燃料用の植物を栽培するために、もともとあった森林などが開梱されてしまうという危険性もあります。樹木も大量の二酸化炭素を吸収してくれる存在です。しかし、伐採して畑にしてしまうと、元の姿を回復するのが非常に難しくなります。結果として砂漠化を招くリスクもあるのです。
エコな燃料を製造するために、結局環境を破壊してしまう。これこそが最も重大な問題と言えるでしょう。
製造の過程で二酸化炭素が排出される
畑を耕すための耕運機の運転、農薬の生産、灌漑用水の建設など、植物の栽培の過程でも二酸化炭素は排出されます。
また、農作物からバイオエタノールを作る工程でも、発酵、糖化、蒸留などに機械を用いるのでそれを動かすエネルギーを作る際に二酸化炭素が発生します。
参照元:バイオ燃料は環境・エネルギー問題に有効か?著者・静岡大学工学部松田智
こうした投入エネルギー由来の二酸化炭素を含めると、バイオエタノールは決してエコな燃料ではないと考えられています。
結果として環境問題の解決にはならないのではないか、と指摘されているのです。
日本の木質バイオマス利用の課題
日本における最大の課題は、生産コストです。間伐材などの廃棄される木材ではなく、紙を作る過程で出たパルプの廃材が使われているからです。
現状、原油価格が下落しているので、パルプからバイオエタノールをつくるよりも原油をエネルギーとして輸入したほうが低コストになってしまいます。
諸外国の場合、、林業の副産物としての木材チップなどを加工することでコストを抑えることに成功しています。
日本でも今後こうした林業や製材業の副産物利用が目指されているのですが、まだまだ実験段階。実用化には至っていません。
詳細は前回の記事をご覧ください。
木質バイオマスの利用について|環境問題、エネルギー問題解決の一端として期待
解決の鍵:エネルギーの地産地消
課題解決のために実現しなくては行けないのは、「エネルギーの地産地消」です。地域の森林から出る間伐材や流木を地域で活用することで、食用の植物を利用、消費せずに済みます。そのため栽培に掛かる投入エネルギーは考えなくていいのです。食品価格の高騰も抑えられるでしょう。
さらに、運搬の必要も無いので、ガソリンによる排気ガスの心配もありません。総合的な栽培への投入エネルギーは、畑作を行うよりもかなり減らせると考えられます。
今後の理想は軽トラック程度の大きさのプラントを地域で保有し、その地域で出た間伐材などを、その場でバイオエタノールに加工できるようにすることです。
そうすれば、運搬の必要がなくなるため、トラックから出る排気ガスを減らすことができるでしょう。
まとめ
植物を原料としたエネルギー生産には、確かに課題も多くありました。とうもろこしやサトウキビを栽培するときに発生する二酸化炭素の量を考えなくては行けないからですね。
では、木質バイオマスが環境に与える影響はどうだったでしょうか。森林を健康に保つためには、生えるべき木だけを残してそれ以外は伐採してしまう必要があります。こうした副産物を利用していれば、栽培するときのような投入エネルギーの心配はありません。実際にヨーロッパなどではこの方法で生産コスト削減に成功しています。
地域で得られる材料を地域で使う。これが21世紀以降の環境問題を解決する一端になるのです。