日本サウナ学会総会2023with鳥取県参加レポート!
2023年11月25日(土)、鳥取県皆生温泉の皆生グランドホテル天水で開催された日本サウナ学会総会に参加しました。サウナ学会総会のダイジェストと、鳥取県主催の「ととのうとっとりサウナフェス」についてお話しします。
日本サウナ学会は、サウナに関する研究や健康増進、安全なサウナ利用に関する最新情報を共有する日本唯一の組織です。会員には政治家、医師、自治体職員、サウナ施設・温浴施設・宿泊施設の運営者、サウナメーカー、サウナ販売事業者、デザイナー、熱波師、熱狂的なサウナファンなど、様々な分野の専門家や関係者が集まっています。
サウナには健康増進効果があるとされていますが、そのメカニズムの多くはまだ未解明です。また、近年急激に盛り上がっている単独のサウナ施設(温浴施設)・アウトドアサウナ市場においては、安全な運営とは何か、ルールや法整備も未確立の状況です。この学会では、関係者が安全・安心に楽しむための日本文化に根差したサウナライフとは何かを本気で議論しています。
そして、鳥取県も「ととのうとっとり」をスローガンに掲げ、豊かな自然環境を活かしたウェルビーイングにつながるサウナ旅を推奨し、観光誘客や地域貢献の一環として活動しています。
目次
オープニング
日本サウナ学会の代表理事である加藤容崇氏の挨拶から始まった総会では、「ここに集まる人たちは、サウナのトップオブトップ、良い意味でクレイジーな存在」「鳥取県は県全体でサウナ振興に取り組む唯一の県として、その本気度が感じられる!」との言葉に始まりました。会場には120名以上の方々が集まり、サウナ業界を牽引するトップの皆さんの話に熱心に耳を傾けました。総会は3部構成で、各部で設定されたテーマに基づいた議論が行われました。
第一部ダイジェスト:サウナジャーナリズムのあり方と危機管理
パネリスト
- 伊達公子さん(テニスプレイヤー)
- 林克彦さん(日本サウナ学会理事・北海道ホテル取締役社長)
- 川田直樹さん(とっとりサウナワーケーションプロデューサー・コクヨサウナ部部長)
- 小澤陽介さん(NPO日本テントサウナ安全協会理事・医師・マッドサウニスト)
第一部では世界をまたにかけるテニスプレイヤーであり、サウナ愛好者でもある伊達公子さんをゲストスピーカーとして迎え、学会理事である北海道ホテルの林克彦社長、とっとりサウナワーケーションプロデューサーであり、文具・オフィス家具のコクヨ社員でもある川田直樹さん(かわちゃん)、そしてNPO日本テントサウナ安全協会の理事で医師でもあるマッドサウニストの小澤陽介先生が登壇しました。
伊達公子さんは、サウナ好きとしてのトークから始めりました。幼少期からサウナ好きだった両親に連れられサウナに行った話や、プロテニスプレイヤーとして世界各国を回る中で各国のサウナに入り日本との違いを体験した話など。特に日本、韓国、ドイツのサウナ文化の違いについても興味深い話を多く聞くことができました。さらに、トップアスリートの聖地である日本のナショナルトレーニングセンターにもサウナがあり、アスリートとサウナの関係性についても話されました。
外科医である小澤先生は、幼少期からサウナに触れる機会が多く、サウナ好き。2019年にテントサウナに出会い、日本の四季を感じるテントサウナの良さを実感されたそうです。医者としてNPO日本テントサウナ安全協会の理事として、サウナをもっと気持ちよく利用するためにできることや、テントサウナの危険性について話されました。また、マッドサウニストとしてテントサウナの魅力を活かしたイベント運営も行い、ニューオータニ東京やニコニコ超会議で開催されたサウナイベントの事例も紹介されました。
コクヨの川田(カワちゃん)さんは、鳥取のサウナワーケーションニストとして鳥取の観光支援をされており、さらにサウナ好きなタレントとしても有名なサバンナ高橋さんなどとの交流を持ちつつ、一級建築士の資格を活かしてサウナプロデュースも行ってるそうです!事例としては、The Hive 富山県の土の中の一棟貸し切りサウナホテルを紹介。地方×貸切サウナホテルにおける強みが今後の観光振興の一手になる!という鳥取でもできるかも?と思う熱い話をきけました。
サウナジャーナリズムについての議論では、どうしても止められない「サウナに関する情報の約1割は虚偽や悪い話が含まれている」という事実。そして、これらの間違った情報を鵜呑みにしつつ、自身の限られた経験や知識に基づき安全対策を怠って事故に至るケースが残念ながら起きているのが現状だそうです。特に、テントサウナは、自身で設置から運営まで行える手軽なプライベートサウナであり、市販品を組み合わせることで手軽に商品化できるもの。そのためにルールがないのが現状。NPO日本テントサウナ安全協会では、危険な商品もいくつか市販品として販売されていることから、メーカーへの情報提供や、クラウドファンディングのmakuake社と連携してテントサウナの販売について販売予定事業者へのアドバイスを行っているそうです。また、イベント運営では危機管理や安全対策、条例や公衆浴場法、消防など様々な面で対策を検討する必要があり、法律に基づく運営が求められている。アウトドアサウナ自体が登場して間もないことから、自治体によって対応が異なるのが現状です。共通ルール化を目指して改善を図りたいと考えて行きたい!という議論でした。
そして、テントサウナに使うストーブ自体の安全管理にも注力されているとのこと。特に「やけど対策」と「一酸化炭素中毒対策」が重要。やけど対策ではストーブに加工ガードを設けることの啓蒙活動中。本来ストーブの表面は400度近くになるものを加工ガードがあれば100度程度まで下げることができるそうです。また、強風によるストーブの転倒によるやけど事故もあるため、テントの固定をしっかり行うこと、特に正しいペグダウンの方法を知ってもらうことが重要と話がありました。一酸化炭素中毒対策では、熾火の状態を作らないことが重要。熾火状態は一酸化炭素を多く排出し、特に無味無臭であるため人が気づきにくい危険があり最悪事故に至るそうです。積極的な予防対策として、安価なシングル煙突ではなく二重煙突を採用し、床に断熱材や床パネルを置くこと、冷めた地面に直接ストーブを設置しない工夫が必要。このような啓蒙活動も積極的していきたい!との話がありました。
また、危険な状況が発生する可能性も視野に入れた対応をしてほしいそうです。主な対策として①AEDの準備、②ポイズンリムーバー・酸素缶、耐火用グローブの用意、③高感度の一酸化炭素チェッカーを複数箇所に設置し設定を「50ppm」にする、④何かあった時に救急車が入れる道路・導線を確保すること。の4点を挙げられていました。
その他、NPO日本テントサウナ安全協会では、「安全運営アドバイザー制度」を設け、講義や制度の資格取得を行っています。現在資格取得者は38名で、もっと多くの人にこの制度を活用してほしいと参加に提案されていました。
最後には業界発展のために、もっとアウトドアサウナを楽しむことも考えていきたいとワクワクする話もありました。具体的には、北海道新得町でアヴァント(本場フィンランドで行われている凍った湖に穴をあけて水風呂代わりにする文化)を行った。一般の方も安全に楽しんでもらうために数年かかった。最大の対策は湖内に網を張るなどしたそうです。このような取り組みで「一人2万円以上」のイベントを開催する事ができました!このような尖ったイベント作っていきましょう。そして、好きなサウナを楽しむことは体調管理が一番大切です。自分の体調を自分で知ること。より良い状態でサウナを楽しむ。絶対に無理をしない。体調を足し算と引き算で考えてサウナを楽しめる世の中をつくっていくことを日本文化としていきたい。皆さんサウナを長く楽しみましょう。という言葉で締めくくられました。
第二部ダイジェスト:サウナとメンタルケア~精神科医と語るサウナの影響について~
パネリスト
第二部はサウナとメンタルケアの話でした。三ケ田智弘先生と三浦明彦先生が登壇し、サウナを利用する事によってうつ状態から回復したり、元気になったりという事例はよく聞くが医学的な見地から見た場合に正しいのか?について医師同士で議論が進められました。
三ケ田先生からは、サウナが医学的に効果があるのかを議論するためには2つの視点「病気になる前の状態」と「病気になった状態」でわけて考える必要がある。特に病気になる前の状態では、ウェルビーイングの向上を意識するためにサウナは有効であると考えています。事例としては、京都にある京北堂株式会社が運営するEARTH SAUNAにて実施した調査ではサウナで整うを体験した人ではマインドフルネスのスコアであるFFMQ5つの因子のうち「観察する事」「反応しない事」「体験の言語化」「総合点」のスコアがアップしたという調査結果があります。また、サウナに入る人は精神科疾患になりづらいという調査結果も。2000名以上の被験者の調査結果では「サウナに週1回以上入る人」は入らない人と比較してリスクが78%減少するという調査結果もあると報告がありました。
さらにはサウナが子どもに効くのか?という問いに対しては「中高生以上の子どもには使えるのではないか?」という考えがあるが、まだまだ可能性を探っている段階であるが、失恋がトラウマとなりPTSD(心的外傷後ストレス障害)になり学校に行けなかった子どもがサウナを体験することで学校にいけるようになったという報告や小規模だが受験生に効果あるかも?という調査結果もある。その他、ADHD(注意欠如・多動症)の子どもが集中力改善されたなどの報告を受けている。このような精神疾患においては薬だけでは限界があり、サウナ体験を通して患者さんにとってプラスを作ることが出来るかもしれない?とは思っている。しかし、これらはまだまだ研究していかねばならないことであり、もっともっと様々なデータを取得していく必要があるとのことでした。
とても未来がある言葉でした!
鳥取大学の三浦先生からはサウナの精神科的な効能について。特に不安症やうつ病へのデフォルトモード・ネットワーク(※注:脳が意識的な活動をしていないとき、つまりぼんやりとしているときに活性化する神経回路。車のエンジンのスイッチは入っているが走っていない時の状態、つまり車のアイドリング状態と例えることができる状況)における効果について話がありました。まず「うつ症状、うつ状態」と「うつ病」は違う。でも、どちらの段階でも、治療が必要な方も必要ではない方もサウナは一定の効果があると考えているそうです。そもそも、「うつ」をひとつの症状としてみることは難しいため、個別判断していき、サウナを通した時間が症状改善の可能性がある場合、一つの改善策として実施していくことを促すことはあるそうです。
しかし、うつ症状とサウナに関する研究はやりにくい環境でもある。データ測定では耐熱性がある検査機器が非常に高価であり研究として活用できる状況ではない。またサウナ室で脳波を取る等の調査分析は精神医学には診断が難しいそうです。今後は診断の標準化をしてくことが大切であるそうです。
その他、ひきこもり・いじめ、ネットゲーム依存など社会課題に対してもサウナを活用することが将来的にはあるかもしれないという意見もありました。例えば治療方法の一つCRAFTおいてコミュニティの良循環を生み出すためにサウナを活用する研究などもあるそうです。
☑参考文献:コミュニティ弱化の悪循環からコミュニティ強化の良循環
宮崎大学教育学部准教授 境先生(CRAFTを応用したネット依存とゲーム依存への対応)
最後に三ケ田先生から鳥取県に役立つこととして「クア・オルト療法」の紹介がありました。
クアオルト療法があるドイツでは、国が認定している4つの自然の療養要因で医療保険が適用される特別な地域。クアオルト(Kurort)とはドイツ語で、クア(Kur)「治療・療養、保養のための滞在」とオルト(Ort)「場所・地域」という言葉が合わさった言葉で、「療養地」という意味になります。このクアオルトは、国が認定した特別な地域(基本的には自治体)で、次の4つの療養要因で医療保険が適用される地域です。入院・通院様々ですが、最長3週間滞在して治療をします。
日本では、青森県、山形県、秋田県、群馬県、埼玉県、静岡県、石川県、新潟県、愛知県、長野県、岐阜県、三重県、滋賀県、兵庫県、岡山県、大分県、宮崎県などで活用されており年々増えています。課題としては、予防効果はあるものと捉えられているがどうやってエビデンスをつくるのか?があるそうです。鳥取県は自然豊かな地域。ぜひサウナと相性が良いクアオルト療法を取り入れてみてはどうでしょうか?という新たな提案を頂きました。鳥取でも検討していってほしいところですね。
最後に、鳥取県開催の地の利を活かし!平井知事から鳥取県のサウナの取り組みついて学会員の皆さんに向けたプレゼンがありました。
第三部ダイジェスト:サウナ関連法整備の方向性
パネリスト
第三部は政治家、行政の皆さんが中心にサウナ関連の法整備について議論されました。サウナ関連法案について考えるうえでサウナ議連事務局長の荒井先生と、自由民の加藤先生、そして平井鳥取県知事がそれぞれの立場で議論が進みました。
司会進行した日本サウナ学会代表理事の加藤氏から、法的観点でサウナ運営を考えた場合、公衆浴場法をどう解釈するか?が重要になります。そしてサウナのみの施設の場合、公衆浴場法の「その他浴場」に該当します。アウトドアサウナに関してもその他浴場になります。これを前提条件としつつ、各自治体で条例を制定した上で、サウナ施設に関する許認可をしている自治体の立場の長である平井知事に現状の課題や想いについて、まず意見を求められました。
平井知事からは「そもそもサウナは公衆浴場なのか?今言われている、このサウナ総会で語られるサウナは“新しいサウナ感”の中で語られているものであり、公衆浴場法で規定されているその他公衆浴場とは違うのではないか?なので公衆浴場法で考えることが正しいのか?についての議論もしていく必要がある。という問題定義をして頂きました。確かに現状は無理くり法律や条例に当てはめて自治体は運用がされている傾向があると思います。
そして単一イベントなのか?継続性があるイベント(施設)なのか?で該当する条例の解釈を変えているのが鳥取県の現状とのこと。単一サウナイベントは一般的なイベントとして捉え、継続性があるサウナイベントは収益事業として捉え「その他浴場」として整理しているそうです。
このような鳥取県のサウナ施設運営の現状も踏まえたうえで、登壇者で議論が行われました。その中でもよくあるあがる議論して語られていたのが「混浴はなぜダメなのか?」という点です。これも自治体によって見解が異なっています。これは一つのわかり易い事例であるがどの自治体でも同じルールで運営できる法整備が必要ではないか?という議論が行われました。(※補足:鳥取市の場合は鳥取市公衆浴場法施行条例 第7条の規定により「浴場業許可緩和申請書」を提出し水着着用混浴についての緩和申請を提出し許諾を得ることで混浴が可能になるケースがあります。)
さらに問題は自治体の許認可において「事故が起きるかもしれない。行政も責任を取れと言われる可能性がある」ということであり、結果としてどのように責任を取るか?ということも大切な議論となる。サウナという日常生活にはない「特別な環境」を作る以上、何が特別なのか?を定義していく必要がある。ということは公衆浴場法の成り立ちである「衛生・風紀面などにおいて良い環境に保つ」という考え方は適応しているのだろうか?という議論も大切な視点であるそうです。
その他、サウナを「健康づくり」と捉えるとスポーツジムで汗をかくのと何が違うのか?という考え方もできるかもしれない。しかし結果的に指導や方針が決まっていない以上何とも言えないのが現状と言える。今言える結論としては、一番重要な視点である「健康と安全、命を脅かすことがないこと」を抑えれば大丈夫ということであるといえると話を締めくくられていました。
今後について明確に言える点としては、まずは現状把握をすること。日本は公衆サウナ施設の数は世界一といわれるほど、とにかく多い。しかし、各施設がどのように運営しているのか?サウナが因果関係と思われる事故にはどのような種類がありどれくらい発生しているのか?運営や安全面に関するデータやエビデンスが全く取れていないのが現状である。重要なのは現状把握である超党派サウナ振興議員連盟としては関連団体を通して現状把握を行っている。その結果をまずはとりまとめ今の状況を的確に把握することが大切であるそうです。
さらに、今後の方針としては、例えば「サウナ特区」を作ってみる方法もあるのではないだろうか?ぜひ鳥取県でサウナ特区を!という話もあがりました。例えば、医療DXとの連携。事業側の調査分析、医療側の調査分析など。お風呂なのか?サウナなのか?ヘルスケア領域に話を含めることも特区としては良いかもしれない。そうなると厚労省だけでなく経産省も含めて考える必要がある。新しい生活様式にあった法整備、その他対応を考える。その後ろにあるリスクについても考えて行く必要がある。前向きな未来のサウナに向けての政府・行政それぞれの姿勢が大切であり、大胆に前に進めつつも、何か課題があれば報告を義務化するなどの運営が出来るようにする。そして課題解決策を講じてさらに前に進める。日本にとってよりよいサウナ文化がつくれる法整備を目指す。そのためには、繰り返すがまずは現状把握が大切。様々な視点での現状把握をしていきたいという言葉で議論が締めくくられました。
いま語られているサウナは公衆浴場なのか?スポーツジムなのか?という視点はこれからのサウナを考える中でとても重要な視点と思いました。様々な分野の先駆的な専門家たちによるパネルセッションで得られた情報や議論は、これまで漠然とバラバラであった知識や知見を繋げていくことができた時間でした。その後開催された懇親会でも鳥取の冬の名物でもある「カニ」を堪能しながら、軽快な曲のテンポに合わせて、大工の左官さんが土壁を塗り上げる模様も滑稽に演じる踊り、米子市淀江地区にある「淀江さんこ節」も披露されました。日本サナ学会の代表理事である加藤氏と、鳥取県県議会サウナ・アウトドアツーリズム推進議員連盟会長でもある福田俊史先生も一緒に踊られて、会員全体の親睦に大きく貢献されていたのが印象深い懇親会でした。
日本サウナ学会代表理事加藤氏&マッドサウニスト小澤氏に開発中のテントサウナ用ペレットストーブの体験と講評を頂きました
総会参加前後で、日本サウナ学会代表理事の加藤氏、マッドサウニスト小澤氏の両者にテントサウナ用のペレットストーブを実際体験いただき、様々な課題や方向性のアドバイスを頂きました。お二人方ともに頂いたのは「重要なのはデータ測定」であること。今はテントサウナを知っている人向けのみに販売をしているから大きな事故は起きないかもしれないが、今後不特定多数の人が使うテントサウナとしてはまだまだ解決してほしい課題はある。これらを一つずつ解決していき、薪ストーブより使い勝手がよい「ペレット」を使ったテントサウナストーブをぜひ製品化してほしい。日本のモノづくりのパワーを世界に見せつけていく。メイドインジャパンの凄さをアピールする製品になってほしい。そのためには様々な協力をしますよ!って熱いメッセージを頂くことができました。